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乳房再建に対する考え

私の考えとメッセージ

ここまで種々の項目に目を通していただいた方には、例えば、『有茎皮弁=全壊死がない=安全』というシンプルなくくりではないことがお分かりいただけたと思いますし、材料準備、形創り、それぞれに色々な要点があり、また、どんな結果が予想されるのか、なども医療者側の視点に立つからこそ見えてくる部分があることをおわかりいただけたのではないでしょうか。治療を受ける際には、一つの方向からだけものごとを見るのではなく、出来るだけ様々な角度から概念をより深く理解することが重要で、その中からご自身に最もふさわしいと思うビジョン・主治医を選ぶことが望ましいと考えます。

 

日本では「乳房再建専門医」という制度はありません。しかしながら、種々の概念や技術を含め、これだけ高い専門性を必要とされるにも関わらず、これらが各主治医間でしっかりと共有できているとは言いがたい現状があります。例えば、これまで国内において有茎腹直筋皮弁は、『全壊死がない=できて当たり前』という風潮があり、若手Drが『まず有茎腹直筋皮弁で再建をやってみて、慣れてきたらDIEPに移行する』という流れがあるようなのですが、ご説明させていただいた通り、有茎皮弁と遊離皮弁(DIEP flap)では、皮弁血流やデザインが全く異なりますので、有茎皮弁で若干の経験を積んだとしても、その経験(特にデザインに関する概念)が、遊離皮弁でそのまま生きるわけではないのです。有茎皮弁というのは、治療を行う主治医にとっては、『再建は出来るが高い完成度を目指しにくい』=『難易度が高い』(あるいは当たりハズレがある、といったほうが感覚的には近いかもしれません)治療で、遊離皮弁(DIEP flap)の信頼性やデザイン上の合理性に一度慣れてしまうと、大抵の乳房再建外科医は有茎皮弁の治療に戻る気にはなれず、有茎皮弁で何回かやった経験はそれっきり、ということになります。それなら、頭頸部再建や手の外科など他のジャンルでマイクロサージャリーに精通した上で、いきなりDIEP flapで乳房再建をスタートする方が理にかなっている、つまり、乳房再建を自家組織で行うのであれば、まず卓越したマイクロサージャンであることが治療に携わる際のマナーである、と考えるのは私だけなのでしょうか。さらに問題なのは、私が『有茎腹直筋皮弁の項目』でご説明させていただいた重要な内容について、有茎腹直筋皮弁を実際に使っている(特に若手の)Drの理解が十分とは言い難いという点も挙げられ、本来は看過すべきではないのではないか、と考えております。

 

私は、あくまでもある術式の是非について述べているわけではなく、患者様と主治医が合意していれば、基本的にはどのような術式もありうると考えています。ただし、前述の通り、有茎腹直筋皮弁とDIEP flapでは、『難しさの質』が全く異なります。有茎腹直筋皮弁の難しさは、その技術だけではなく『解剖学的な運』が実力以前に左右する要素が大きい点にあります。私がこれだけ多くの乳房再建をやっていながらも、今まで一度も有茎腹直筋皮弁を用いて乳房再建を行わなかった理由は、解剖学的な運ではなく、たとえ難しいとしても自分自身の技術力で患者様に責任を取りたいと考えているからです。

 

どのような治療も人生と同じく、治療をする側も治療を受ける側も、込めた気持ち以上のものは決して返ってきません。一度きりの人生ですし、どうせやるのであれば、勇気を持って決断するというのは大切だと思います。必ず結果を出す自負はあります。ぜひ思い切ってぶつかってきてください。

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