人工物による乳房再建の症例
人工物による一次二期再建
全摘術と同時にエキスパンダーを挿入し、その後シリコンインプラントで再建します。当院及び関連施設において、これから乳がん治療を受けられる患者様に対し、全摘術と同時に再建手術(ティッシュエキスパンダー挿入術)をお勧めしています。
①全摘術とエキスパンダーを挿入
②シリコンインプラントで再建
人工物による二次二期再建
全摘術が終了してからあらためてエキスパンダーを挿入し、その後シリコンインプラントで再建します。
① 全摘術
② エキスパンダー挿入
③ シリコンインプラントで再建
自家組織による二次一期再建
全摘術後に化学療法と放射線治療を行い、その後自家組織で再建します。
① 全摘術と治療
② 自家組織で再建
一次二期再建を推奨する理由
1)全摘術による喪失感を緩和できる
全摘術による喪失感は誰にとっても計り知れないものと思います。
エキスパンダーを挿入することにより、全摘前と同じような乳房形態を維持することができ、喪失感を最小限とすることができます。
2)再建方法について全摘術後にゆっくり検討することが可能
一次再建の場合、特に一次二期再建を推奨する根拠は、再建術式選択を先送りして、後でゆっくり考える時間を作ることができる点にあります。人工物、自家組織のいずれかの再建をあらかじめ希望していたとしても、途中で気持ちが変わる可能性も十分にあり得ます。
一次再建の時点でエキスパンダーが入っていると、人工物再建がどんな方向性のものなのか、大まかにでもイメージすることが可能になります。その経過をふまえて、そのまま人工物再建の方向性とするか、自家組織に変更するかを検討することも可能なわけです。
3)全摘術後の追加治療の有無を知った上で再建に望むことができる
全摘術後に化学療法や放射線治療などの追加治療が必要になる場合があります。
放射線治療を行うと、人工物により再建された乳房は拘縮(ちぢこまって硬くなること)し、しばしば頭側に位置が移動することがあります。したがって、当院では、放射線治療が必要になるとわかっている場合で乳房形態が下垂している場合には、
シリコンインプラントに入れ替えの際に予めシリコンをわずかに低い位置(足に近い側)に挿入して、照射後の左右差が最小限になるように工夫しています。もちろん、このようなきめ細かな対応は一次一期再建を選択した場合には行うことができません。
4)整容性を改善できる可能性がある
現在保険収載されている人工物の一つであるインスパイラ(ラウンドタイプのシリコン)は、乳房の形態とは異なるため、そのまま挿入するよりは、エキスパンダーを使用して胸部の皮膚の形を自然な乳房の形に近づけてから再建を行った方が綺麗な結果になる可能性が高くなります。また、治療の種々の経過によりエキスパンダーの被膜が十分に伸びなかった場合でも、入れ替えのタイミングで必要に応じ被膜を切開して、より整容性を改善できる可能性があります。
一次一期再建を推奨しない理由
当院では、北海道内の複数の乳腺科と連携をとり、チーム医療を行なっています。 これらのチーム医療の中では、一次一期再建(全摘術と同時にシリコンインプラントを挿入する術式、または全摘術と同時に自家組織による再建術を行う術 式)をおすすめしていません。 その理由は、乳がんを安全・確実に切除するのは一般的に高度な技術が必要であり、決して容易なことではありません。 場合によっては、予想と異なる経過になり、切除した皮膚の縁が一部ダメになったり、瘢痕になる場合もあるのですが、そのような状態でも、 中に入っているものが、エキスパンダーであれば、さらに皮膚を伸ばしたり、整容改善の準備のための様々な工夫を行うことが可能です。 また、追加治療(例えば放射線治療など)に対する対応としても様々な工夫を行うことが可能です。 つまり、最初にエキスパンダーを入れておいたほうがさまざまなトラブルに対応しやすく、最終的に見栄えが良くなる可能性が高いということです。 乳がんは早期に発見し、きちんと治療をすれば今まで通りの生活が期待できる病気の一つです。だからこそ、再建も少し手間がかかったとしても、一人一人の 患者様に対し、より確実で安全な方法を選択すべきなのです。
全摘術の適応症例において一次一期再建を常に安全に完遂するのは理論的に難易度が高く、本来温存術を行うべき症例、もしくは温存か全摘かの判断に迷うよ うな症例を一次一期再建の適応にしているのでない限り、治療を受ける側のリスクがあることを理解しておく必要があるでしょう。 そのリスク内容は、がんの遺残の可能性(つまり術後の放射線追加照射の可能性)かもしくは整容性の低下の可能性と言えます。 これらの事象が起こった場合、一次一期再建を推奨している主治医にとっては、たまたま偶発的なことかもしれないのですが、治療を受けられる主人公は貴方 ご自身であることを忘れてはなりません。