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人工物再建

人工物(シリコン・インプラント)再建とは

乳房を成形する材料に人工物を使用する方法のことを言い、健側の乳房サイズによって、使用する製品(会社)の使い分けが出来ます。


サイズの控えめな乳房、もしくは大きな乳房、下垂のある乳房の方は、アラガン社のインスパイラ(スムースラウンドタイプ)を使用し、一部の中等度の乳房サイズの方は、シェントラ社のアナトミカルタイプ(oval type)を用いるのが妥当な使用方法になると考えています。

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人工物再建の長所・短所

長所

体の他の部分に傷をつけることなく再建手術を行うことができる点です。短時間で、低侵襲な手術治療であり、若年の方や仕事が多忙な方など、時間の制約がある場合でも治療が可能なことも大きなメリットでしょう。

短所

・被膜拘縮による経時的な変化があることが挙げられます。人工物を体の中に挿入した時に周囲に形成される薄い膜を被膜と言いますが、経時変化により徐々に被膜が縮み、結果として再建乳房が変形したり硬くなることを被膜拘縮と言います。特に、放射線を受けられた方の場合には被膜拘縮が高度になる傾向があります。

・リスクとしては、感染の問題があります。ごく稀ですが、人工物再建の場合に感染を起こすと、人工物を取り出さなければならない場合があります。また、自家組織と比較した場合に、人工物ではなかなか克服できない点は(程度の差はあれ)ある種の違和感であると言えるかもしれません。この点は残念ながら自家組織とは差があります。(例えば、冬の寒い日に入浴前にシリコンが冷たく感じるなど。)

課題

・安全性がある程度担保されていても、どのようなインプラントも必ず劣化しますので、ある一定期間内にはシリコンは入れ替えを行う必要性があると考えた方がいいでしょう。ただし、現時点では、厳密に何年ごとに入れ替えなければいけない、という規約があるわけではありませんので、この点については将来的に専門学会や国が示唆する基準に準拠する必要があるでしょう。

・健側の乳房の形態により、人工物再建ではうまくバランスをとりにくい場合があります。具体的には高度な下垂乳房の場合などですが、この場合対称性を保つための方策としては、健康な側の乳房を釣り上げて形を整えたり、ボリュームを縮小させて形を整えるなどの方法があります。下垂があれば絶対に自家組織にしなければいけないわけではありません。
要は、ご自身が納得できるような左右のバランスが得られればそれで良いわけで、常に柔軟性を持って可能性を考えることが重要と考えます。

シリコン・インプラント挿入術の方法

当院では、インプラント挿入術は日帰り、もしくは数日間の短期入院での治療のいずれかを選択することができます。
麻酔は静脈麻酔(点滴による麻酔)と局所麻酔を併用して行います。
全摘手術を行った後の瘢痕部分を切除し、そこからエキスパンダーを取り出して、内腔を洗浄します。
適切なサイズのシリコンインプラントを選択し、挿入します。
ドレーンを刺入し、閉創して手術を終了します。手術時間は概ね1時間〜1時間半程度です。

手術後の経過

ドレーンは通常4〜5日で抜去可能です。
乳房下溝(乳房の下のライン)の調節などをインプラントの入れ替えの時に行なった場合には、術後数日〜1週間程度は安静を保ち、治療した側の上肢(腕)をなるべく動かさないことが重要です。

シリコン・インプラントの変遷

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2013年に厚生労働省が、人工物による乳房再建術を保険収載しましたが、その時点で認可されたシリコンインプラントは、アラガン社のナトレルブレストインプラントという製品でした。この製品のシリコンの特徴は、コヒーシブタイプといって、破れても中身が溢れ出ない性質のシリコンを使用していました。また、形状はアナトミカルタイプと呼ばれるしずく型(乳房の形態に近い形状)で、表面はテクスチャードタイプというザラザラの構造になっていましたが、この表面構造は、周囲の組織と癒着することによりシリコンの回転を予防し、かつ拘縮(再建した部分が縮こまって硬くなること)をある程度防ぐことができるという特徴がありました。ナトレルブレストインプラントは、サイズのバリエーションもある程度充実しており、使いやすい製品だったのですが、BIA-ALCLの問題が提起され、現在は使用できなくなっています。(ちなみに、ナトレルブレストインプラントと同時に保険収載されていた133ティッシュエキスパンダーが使用禁止になった理由は、前述のとおり表面の構造が同じためです。)
それに代わって昨年末に保険収載されたのが、インスパイラという製品です。これはもともと豊胸用に開発されたスムーズラウンドタイプ(形は円盤形状で表面はツルツルの加工)になります。突出度は大まかに分けると5つの種類に分かれています。従来のアナトミカルタイプと比べると、形状を表現しにくい場合があることは否めないでしょう。一方で、安全面から考えれば、悪性リンパ腫の発生頻度は極めて低いことが知られています。

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2020年10月からは、シェントラ社のアナトミカルタイプシリコンインプラントが保険収載され、使用できることになりました。このシリコンは、表面はテクスチャード加工(ザラザラ)になっており、形状については従来のアラガン社のアナトミカルタイプに近いものもありますが、実際に使用できるサイズにはかなり制約があります。底面がラウンドタイプのもの、もしくはクラシックタイプと言われるタイプのものは、健康な側の乳房よりも実際にはやや縦長で、上胸部の膨らみをむしろ強調するような形態になっており、適応になる方はある程度限られますが、底面の形状がoval type(わずかに横幅が広いタイプ)のものは中等度の乳房サイズの患者様には適応があり、より再建が円滑に行えるようになります。ただし、表面がテクスチャード構造になっている限り、BIA-ALCLの可能性(発症の頻度は極めて低いとはいえ)は完全にはゼロとは言えないため、今後の発症に対する注意を怠ってはならないということは言えるでしょう。