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自家組織再建

自家組織再建とは

自分の体の一部を移植する方法のことを言い、一般には「広背筋皮弁」と「腹部皮弁」の2通りの方法があります。当院では、腹部皮弁の一つである深下腹壁動脈穿通枝皮弁(DIEP flap)を用いており、これには3つの理由があります。


1つ目は最大限の皮膚、脂肪組織を準備できるということ。
2つ目は腹部皮弁の中ではドナーの犠牲が最小限であること。
3つ目はあらゆる皮弁の中で最も整容性を担保できる可能性があることなどです。

広背筋皮弁について

肩から背中にある皮弁を広背筋皮弁といいます。この皮弁は、腋窩から出る胸背動静脈という血管に栄養されており、この血管をつけたまま背中からそのまま胸部(乳房部分)に移動することができ、汎用性が高いという特徴があります。


一方で、一般に日本人女性の広背筋皮弁は比較的薄く、一定以上のボリュームの乳房を再建するには理論的にやや無理があります。もともと広背筋皮弁は、皮下脂肪に比べて筋肉成分の占める割合が高く、時間の経過とともにその筋肉部分が萎縮するという性質があります。また、筋肉の萎縮の度合いも実際のところは治療経過を見ないとわかりません。そのため、ある程度大きめに移植組織のデザインを準備して治療を行うべきなのですが、それでもボリュームが足りない場合(特に上胸部など)は脂肪注入などを併用する場合もあります。

乳房の曲面を形成するにあたり、再建材料としての広背筋皮弁の特性としては、皮下脂肪が厚い腹部皮弁に比べると、『広くて薄い』『再建材料としては柔らかくて『コシ』がない』、という特徴があります。もう少し、違う言葉で表現すると、曲面のメリハリ(もしくはダイナミックな凹凸)を出しにくいという言い方もできるかもしれません。その意味合いでは、形を作る上で中心の核となる部分にアナトミカルインプラントのようなものを入れていいのであれば(このようなスタイルをハイブリッド型再建と言います)、そのままその上に広背筋皮弁を広げれば良いので形自体は作りやすいと言えます。

広背筋皮弁の一般的な使い方としては、中等度までのボリュームで、自家組織再建を希望されているが、かといって腹部皮弁(DIEP flap) よりはシンプルに仕上げたいという方には最も向いているといっていいでしょう。近年ではエキスパンダーによる一次再建後に、空いたスペースにそのまま広背筋皮弁を挿入(充填)する方法が一般的ですが、この方法を用いれば、広背筋皮弁のボリューム不足の問題点をある程度の症例までは解消できる可能性があり、かつ術後の瘢痕も単純な1本線にすることができます。
ただし、大胸筋や広背筋がある程度発達している方の場合には、皮膚表面からそれらの筋肉の動きが見えてしまう場合もあります。

腹部皮弁について

腹部皮弁を用いた乳房再建は、上腹壁動脈・静脈を栄養血管とし、かつ片側の筋肉(腹直筋)を用いる有茎腹直筋皮弁法と下腹壁動脈・静脈を栄養血管とし、腹直筋は使用しない深下腹壁穿通枝皮弁法(DIEP flap)に分けられます。


この二つの術式は同じ再建材料を使っていながら、実は全く異なる治療概念であるということが理解されていませんでした。
そこで、まず最初に腹部の解剖をふまえて、なぜ2つの治療概念が全く異なるものなのかについてご説明し、ついで当院で深下腹壁穿通枝皮弁法以外の腹部皮弁を乳房再建に用いない根拠についてご説明いたします。

皮弁を安全に挙上する方法

手術を安全に遂行するためには、術前に穿通枝の位置を正確に把握しておくことが大切で、そのために必ず造影CTを撮影し、穿通枝を含む血管解剖を把握しておくことが重要になります。

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穿通枝を見つけたらその周りを丁寧に剥離し筋膜を切開して、さらに腹直筋の中から下腹壁動静脈を露出させていくのですが、その操作を行う際には愛護的に血管を扱うだけではなく、どのような機械を用いるかという点も重要です。
当院では、剥離の際に高性能のバイポーラを用いているのですが、その理由は通常の電気メスなどで剥離をすると血管に熱損傷を与える危険があるためです。

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血管茎(下腹壁動静脈)を露出させる際には、出来るだけ血管に触らずに血管周囲の組織と腹直筋筋体の間を切開していくことによって、血管自体の攣縮(れんしゅく:血管がちぢこまって血液が流れなくなること)や熱傷(やけど)を回避し、成功率を維持する工夫を行なっています。

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DIEP flapにおける血管の剥離はかなり長い距離になる(穿通枝が筋膜を貫く位置から外腸骨動静脈に合流部する分岐部まで)のですが、DIEP flapの意義から考えると、尾側半分の血管剥離は、実は頭側半分の剥離とは異なるのですが、その理由は腹直筋を動かす運動神経と腹直筋を実際に養っている下腹壁動静脈が伴走しておらず、むしろ直交しているというその解剖学的な独自性にあります。
 
穿通枝が筋膜を貫いて皮弁に入ってくる位置は腹直筋筋体の内側寄りになります。その位置から下腹壁動静脈は筋体の外尾側および深層方向に向かい、最終的には筋体の最深部から外側に出たのちに外腸骨動静脈に合流します。
一方、腹直筋を動かす肋間神経は外側からいくつかの高さに別れて腹直筋の筋体に入り、正中部分に向かいます。血管茎を剥離する際には、穿通枝周囲で肋間神経と下腹壁動静脈が交差するのですが、この位置で神経を損傷したとしても、そこから外側部分の運動神経は生きているので損傷の程度は軽度で済みます。一方、腹直筋筋体の尾側に行けば行くほど、下腹壁動静脈は筋体の外側深層に入り、その近傍で運動神経は筋体の浅層に存在することになります。この位置で運動神経を損傷すると、そこから内側の筋体への神経支配が脆弱(ぜいじゃく)になるので、下腹部の筋力が弱くなる可能性があります。したがって、運動神経を温存するためには、浅層(つまり表面)から腹直筋の筋体を切って露出させるよりも、かえって深層からトンネルを作って血管周囲を剥離した方が安全確実に尾側の運動神経を温存することができることがわかります。
深層からトンネルを展開する際に最も注意すべきことは、下腹壁動静脈から筋体の浅層に向かって(つまり術者に向かって)立ち上がってくる枝が非常に繊細なので、引っ張って出血させないように慎重に処理を行う必要がある点です。この処理さえ慎重にできれば、他の枝の処理はさほど煩雑ではありません。
 
まとめますと、DIEP flapの概念の本質とは、腹直筋筋体の温存だけではなく、その筋体の筋力を落とさないために運動神経(肋間神経)をできるだけ温存することが重要であり、かつ尾側の神経ほどその役割が大きく、丁寧に扱わなければいけないことをご理解いただけたと思いますが、要は、『手術手技のある概念を理解しているだけではなく、その概念をより安全に具現化するためにどのような具体的なアイデアを出せているか』ということが非常に重要なわけです。