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深下腹壁動脈穿通枝皮弁による乳房再建

深下腹壁動脈穿通枝皮弁の整容再建としての優位性

DIEP flapを用いた場合には、有茎腹直筋皮弁に比べて圧倒的に部分壊死率が低いことが特徴としてあげられますが、これはデザインした皮弁の大部分が使えることを意味しています。
乳房の形態を側方から見てみると、上胸部はなだらかな陥凹の曲面になっており、乳頭部分が最も突出度が高くなっていますが、大きな下垂乳房の場合には、上胸部から乳頭までの距離がかなり長い場合があります。これに対し、DIEP flapの皮弁を置く際には、基本的に縦配置とし、頭側から順にZone III、Zone I、Zone II、Zone IV (Hartrampfの分類)の形で配置されます。

腹部の皮弁は、実は中央部分が一番厚さがあり、両端にいくほど薄くなるという特性がありますが、DIEP flapによる乳房再建が有茎腹直筋皮弁に比べて整容再建の材料として圧倒的に有利な点は、実はZone IIIが絶対に壊死しないために、皮弁全体の配置を下げることができる点にあるのです。

横方向から見てみると、頭側からZone III、Zone I、その尾側に皮弁の中央部分(もとの臍の位置)が来るのですが、ご覧の通り健側の乳頭位置に皮弁の最も厚い部分を配置することができ、さらに尾側にも十分な皮弁量を担保できるので、あらゆるサイズの下垂乳房に対応すること可能です。
つまり、高度な下垂形態を含めてあらゆる乳房形態に対応可能な自家組織は、実はDIEP flap以外には存在しないのです。
形(乳房の曲面)を造るというというプロセスは、一般にはart(芸術)と思われがちなのですが、当院における再建術の特質は前述のような緻密な理論構築であり、結果として、『対称的な乳房曲面の再現を高い成功率で約束できる』ことを意味していると解釈していただいて差し支えないと思います。

深下腹壁動脈穿通枝皮弁の長所・短所

長所

自然な質感を保てること、柔らかさや温かさのある乳房を取り戻せるところにあります。完成までには、細かな修正も含めある程度時間がかかるのですが、最終的に完成した後は人工物再建と異なり、メインテナンスがほとんど必要ありません。
また、理論的にはあらゆる乳房形態に対応することが可能です。腹部については、脂肪を減量でき、腹部形態をある程度スッキリさせることができます。

これまで、腹部の皮膚の下にある筋膜を大きく切開することによる腹壁ヘルニアのリスクを指摘されることがありましたが、このリスクも軽減させることが可能です。ヘルニアになりやすい人というのは、極論すると(腹圧が高い人=内臓脂肪があってお腹のボリュームが大きい人)ということになるのですが、このような患者さんでも昔の盲腸の傷がぽこんと盛り上がっていることはまずありません。このことが示唆していることは、盲腸の傷のような小さな傷(瘢痕)は腹圧の問題を回避できる可能性が高いということです。つまり、筋膜を切開するときに、4cm 前後までの小さな切開を2〜3箇所に分けて間に健常な筋膜が入る形にすれば、高い確率でヘルニアを回避できます。
従来は、DIEP flapは妊娠を希望している方には向かないという判断がなされていましたが、若年でかつ何らかの局所(乳がんを切除した部位)の理由があって人工物がどうしても使えない方の場合でも、前述のような筋膜切開の工夫を加える前提であれば、DIEP再建を行ったのちに妊娠などのイベントに耐えうる腹壁の強度を維持することが可能と考えています。

短所

手術時間が長いこと(6時間〜10時間)、下腹部にある程度長い傷が残ること、プロスポーツ選手には向かないことです。

深下腹壁動脈穿通枝皮弁の治療の流れ

深下腹壁穿通枝皮弁を用いて乳房再建をおこなう場合は、以下の通りいくつかのパターンに分かれます。

一次二期再建で行う場合

エキスパンダーを用いて全摘術と同時に一次再建を行った場合には、エキスパンダーは大胸筋の下に入りますが、この状態から自家組織再建に移行する場合には、エキスパンダーを抜いたスペースに皮弁を入れることはできません。その理由は、全摘術を行った皮膚は非常に薄いので、そのままエキスパンダーが入っていたスペースに皮弁を入れる形にすると、皮膚のすぐ下にある大胸筋の動きが見えてしまって非常に不自然になるためです。したがって、一次二期再建でDIEPなどの自家組織を選択する場合には、大胸筋を皮膚から剥がして肋骨の上に戻し、その上に皮弁を入れる工夫が必要になります。

 

エキスパンダーで伸ばした皮膚の下に皮弁を入れる方法は2通りあります。一つ目は、伸ばした皮膚の下に完全に皮弁を入れる方法。二つ目は一部皮弁の皮膚を露出させる方法です。

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傷を一本線にしてなるべく目立たないようにするためには、当然皮弁を伸ばした皮膚の下に完全に入れてしまう方がいいと思われるかもしれませんが、実は簡単にそう言い切れない場合もあります。エキスパンダーで皮膚を伸ばす場合には、注入量を増やせば良いのですが、問題は、そのように伸展させた場合、乳輪乳頭周囲の皮膚の面積が担保できたとしても、どうしてもtop(乳頭乳輪)周囲が平らな印象になってしまい、健側と同じような形態になりにくい場合があるのです。なぜなら、いくらしっかり皮膚を伸ばしたとしても、伸ばした皮膚自体にある程度緊張がかかるので、最もメリハリを出すべきtopが平らになってしまうからです。患者さんご自身の側から見れば、正面から見る分には何の問題もないのですが、上から見ると突出度やtop周囲の形が違う場合もあり得るということです。

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逆に、皮弁の皮膚を一部露出させた場合には、突出度をある程度担保できる可能性がありますが、腹部の皮膚と胸部の皮膚の質感が違ったり、妊娠線がある程度ある場合には、その差が目立つ可能性もあります。これらの違いはどちらがいい悪いということではなく、それぞれの状況によってご自身がより納得のいく結果を得るために予備知識として必要な情報であり、その上で希望に適ったいずれかの方法を選択すべきということになります。私自身は、患者様の希望があれば、ある程度傷を目立たなくさせるような修正手術に自信を持っておりますので、必ずしも伸ばした胸部皮弁の下に完全に移植皮弁を入れる(つまり、皮弁の皮膚を露出させない)ということに極端にはこだわっておらず、むしろオリジナルの乳房曲面の美しさを徹底的に再現することに重きをおいて再建治療を行なっております。

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二次一期再建で行う場合

逆に、皮弁の皮膚を一部露出させた場合には、突出度をある程度担保できる可能性がありますが、腹部の皮膚と胸部の皮膚の質感が違ったり、妊娠線がある程度ある場合には、その差が目立つ可能性もあります。これらの違いはどちらがいい悪いということではなく、それぞれの状況によってご自身がより納得のいく結果を得るために予備知識として必要な情報であり、その上で希望に適ったいずれかの方法を選択すべきということになります。私自身は、患者様の希望があれば、ある程度傷を目立たなくさせるような修正手術に自信を持っておりますので、必ずしも伸ばした胸部皮弁の下に完全に移植皮弁を入れる(つまり、皮弁の皮膚を露出させない)ということに極端にはこだわっておらず、むしろオリジナルの乳房曲面の美しさを徹底的に再現することに重きをおいて再建治療を行なっております。

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二次二期再建で行う場合

1)胸部は全摘術の傷を開いて皮膚の下を広範囲に剥がし、エキスパンダーを挿入し、生理食塩水を注入して閉創します。
自家組織を前提として二次二期再建を行う場合には、直接皮膚の下にエキスパンダーを入れますが、人工物再建に変更する可能性が若干でもある場合は、大胸筋の下にエキスパンダーを入れます。
2)適切なサイズと形になるまで数回に分けエキスパンダーに生理食塩水を注入します。
3)再建手術を行います。胸部のエキスパンダーを抜去し、内胸動静脈を露出します。腹部はDIEP flapを挙上し、下腹壁動静脈を内胸動静脈に吻合します。
4)腹部にドレーンを刺入し閉創します。
5)皮弁を乳房の形態に整え、胸部の皮弁の下にドレーンを入れて、閉創します。

二次再建の場合には、もともと胸部の皮膚が瘢痕化していることもあり、皮膚伸展に制約がありますので、もしエキスパンダーを用いても皮膚が十分に伸びなかった場合には、皮島が一部露出する可能性もご了承いただかなくてはなりません。

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